天然染料の手織りの絨毯
メキシコのオアハカ州テオティトラン・デル・バジェに住むサポテク族の手織りの絨毯です。
彼らは20世紀以降、化学染料と紡績機械によって途絶えてしまった伝統の手紡ぎ・天然染料の絨毯作りを復活させ、現代に生きるリビングアートとして作り続けています。
希少な天然染料と手紡ぎの意味
メキシコ国内で採れた良質な天然ウールを手で紡ぎ、化学染料や揮発性有機化合物を一切使用せずに、天然染料で色彩豊かに染め上げます。
天然染料は、どれも膨大な手作業で採れたメキシコ国内産の希少なものです。サボテンに住むカイガラムシをピンセットで一匹一匹摘んで抽出されたコチニールは赤で力強さを象徴します。
青に染める本藍はかつてはラテンアメリカ全体で500年以上栽培されてきましたが、合成染料の台頭と気候変動により、今では唯一近隣の村サンティアゴ・ニルテペクのみで作られています。約20名の生産者が伝統を守り、すべて手作業の過酷な肉体労働で、藍の葉から時間をかけて本藍を作っています。その青は平和と静寂を意味します。
死者の日に祭壇に飾るオレンジが印象的なマリーゴールドは希望と人生の象徴である緑の染料となります。
このように古くから用いられてきた天然染料を組み合わせ、様々な色に染め上げます。
天然染料から抽出された色素から生まれる濃淡のバリエーションは、化学染料では決して出せない味わいがあります。天然染料は個体差があり、染める際の温度や湿度でも色が変わるため、同じ色は二度と出せません。
またここで重要なのが、手紡ぎの工程です。機械で紡績すると、ウールのキューティクルが破壊されます。本来適度な油分によって保たれていた湿度と温度のコントロールなくなり、染め上がったときの艶や透明感が失われてしまいます。
良質なウール、天然染料、手紡ぎ、すべてが揃わないと、コレクティブル（収集価値のあるもの）として世界的に評価され、美術館に収蔵されるほど高品質なテオティトラン・デル・バジェのラグ（現地語でタペテ）になりません。
丘の上、変わらぬ手と暮らし
このラグを作ったKiae Daynは、テオティトラン・デル・バジェにある家族経営の工房です。工房名の「Kiae Dayn」は、サポテコ語で「丘の上」を意味します。その名の通り、丘の上にある工房は、家族が生活する場であり、煮炊きの香りや鶏の鳴き声が日常に溶け込み、古きよきメキシコの田舎の素朴であたたかな暮らしが今も息づいています。
この工房の織りの伝統は、現当主であるフロイラン・エルナンデスの曽祖父にまで遡ります。彼が使っていた足踏み式の織機は、今も家族の手によって受け継がれ、織りの音が絶えることはありません。30代半ばの若いフロイランは、その歴史と文化的遺産を背負いながら、現代に生きる織り手として静かにその技を磨いています。
工房では、家族一人ひとりがそれぞれの役割を担っています。父・ミゲルはラグを織り、母・フアニータは動物をかたどった織物の置物を制作。そして、若い世代である甥のマテオも、いつか織りを継ぐと約束し、今は興味津々にその背中を見つめています。
Kiae Dayn のラグは、国内産のウールを使用し、天然染料で染められています。コチニールやインディゴ、ペリコンの花など、オアハカの自然から得られる色で布に命を吹き込んでいきます。年に一度しか収穫できない染料や、水の違いによる微妙な色の揺らぎなど、自然との対話によって生まれる色には、完璧さではなく、生きているような「ゆらぎ」が宿ります。フロイラン氏は、その不均一さこそが自然な美しさだと語ります。
祖先から代々受け継がれてきたデザインノートには自然や教会、古代遺跡などの図案が描かれています。フロイラン自身の感性もそこに重ねられ、伝統的な図案を守りつつも、ほどよく現代的なセンスが取り入れられたデザインが特徴的です。
丘の上で今日も変わらず織られるその布には、言葉では伝えきれない静かな時間が宿っています。どうか、その手ざわりを感じてみてください。
本製品について
三角形を2つ組み合わせた蝶の図案が目を引く伝統的な図案です。
古代メキシコでは戦で倒れた戦士たちの魂は、蝶になって太陽の楽園へ運ばれると信じられていました。また蝶は変容や再生の象徴でもあり、生者と死者の間を繋ぐ使者とも考えられていました。なので、蝶は死、魂、祖先、変容、再生、神性といった非常に深い象徴的な意味を持つ存在とされています。
鮮やかな色と模様が特徴ですので、お部屋の主役となります。家具や壁はシンプルにまとめると、ラグの美しさが際立ちます。無地のソファや木の床との相性も抜群です。1枚敷くだけで空間がぱっと華やぎます。
小ぶりのサイズ感で、玄関やローテーブルの下やベッド横にディスプレイするのがおすすめです。
